東方領土と追放


●最近出版された研究を紹介します。



Christian Lotz, Die Deutung des Verlustes. Erinnerungspolitische Kontroversen im Geteilten Deutschland um Flucht, Vertreibung und die Ostgebiete (1948-1972). Böhler Verlag, 2007.
[シュレージエン同郷人会、プロテスタント教会、ヘルムート・フォン・ゲルラッハ協会という三つの団体の東方領土に対する立場と理解の仕方をたどった著作。ドイツ民主共和国での活動にも光をあてている。特に戦後東ベルリンで結成されたヘルムート・フォン・ベルラッハ協会をとりあげた点は高く評価できる。]


Andreas Kossert, Kalte Heimat: Die Geschichte der deutschen Vertriebenen nach 1945. Siedler, 2008.
[被追放者諸団体の歴史をたどった一般向け概説書。]





Matthias Müller, Die SPD und die Vertriebenenverbände1949-1977.Eintracht, Entfremdung, Zwitracht. LIT Verlag, 2011.
[題名通り、戦後1977年までのSPDと被追放者諸団体の関係について論じたもの。1950年代末から1960年代前半の期間、SPDと被追放者連盟との関係は比較的良好で、SPDの連邦議会議員が被追放者連盟会長の地位についたこともあった。後に新東方政策でオーデル=ナイセ線の承認を行ったブラントも、この時代には被追放者諸団体の主張と適合した立場をとっていた。1965年以後、そのようなSPDと被追放者諸団体との関係がどのように変化していったのか。その興味深い問題を探った著作である。


Andrew Demshuk, The Lost German East. Forced Migration and the Politics of Memory, 1945-1970. Cambridge University Press, 2012
[被追放者諸団体(特に各同郷人会)の活動に新たな光をあてた著作。団体幹部による「故郷」の回復を求める政治的主張とは別に、同郷人会が行った集会や出版活動が一般被追放者たちに「代理故郷」を提供し、結果として彼らが現実の領土喪失を受け入れることを可能にする感情的回復の機能を果たしたという議論が説得力をもって展開されている。]


Michael Schwartz, Funktionäre Vergangenheit. Die Gründungspresidium des Bundesverbandes des Vertriebenen und das "Dritte Reich". Oldenbourg Wissenschaft Verlag, 2012
[マスメディアでも話題になった本。600ページ近い大著で値段も1万円くらい。私はドイツで購入したが、買うのに躊躇してしまったほど。1958年に結成された被追放者連盟(BdV)幹部会ののメンバー6割以上が元ナチス党のメンバーだったという事実を「暴露」したもの。Gille、Gossing、Jaksh、Kather、Krüger、 Langguth、 Lodmann von Auen、 Mocker、 Rehs、 Shellhaus、 Trischler, Ulitzといった様々な政治的立場をとる人々の過去を一人づつ「洗い出し」ている。パーソナル・ヒストリーとしては面白い。さぞかしBdVは反発するだろうと想像するのだが、実際は冷静な態度で応答している。BdVのホームページにはこの著作に関する会長エリカ・シュタインバッハのメッセージがアップされている。それによれば、シュタインバッハはこの著作の出版を歓迎し、その結果は「私にとってすこしも驚きではない」と述べている。そして、ナチスの過去を持ちながら、BdV創設時の幹部会のメンバーが連邦議会議員として戦後ドイツの民主主義の確立に貢献した点を、むしろ高く評価し、彼らを武装SSのメンバーでもあったギュンター・グラスと比較している。また、8百50万にも上るナチスのメンバーが、戦後ドイツの各界で影響力を行使していた点にふれ、ドイツ民主共和国(東ドイツ)の行政職員の4分の1、民主共和国の独裁政党社会主義統一党の約25パーセントが元ナチス党員であったことにも言及している。さらにBdVの機関紙Deutscher Ostdienstでは、著者Schwartzとシュタインバッハが加わったBdVの過去の歴史に関するシンポジウムの記録さえ掲載している。これらの一連の出来事をみると、やはりドイツにとって、ナチスの過去は「過ぎ去らない」のだなということを実感させる。しかし、その創設者たちの「過去」の指摘に対するシュタインバッハの「開き直り」とも思える姿勢には、時代の変化も感じさせる。]





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